ケース検討会、スーパービジョン体験について(専門家向け)

 だいぶ久しぶりのブログになってしまいました。

 今日は臨床心理士の専門家としての訓練について書いてみたいと思います。
 以下の内容は個人スーパービジョンやケース検討会グループについてです。ただし、基本的には臨床家として働き始めたばかりの方やスーパービジョンを受けた経験がない方向けの内容になっています。



 私たち臨床心理士は資格をとったあと、臨床の訓練を行います。
 現在、公認心理師という国家資格ができたことで、臨床心理士との比較や大学院教育のあり方など含めいろいろと心理臨床家の資格や学び、訓練について議論がなされているようです。一つ言えることは、どのような資格を取得しても、心理臨床を生業にしていく限り、訓練や学びは一生涯続いていくものだということではないでしょうか。


 臨床心理士の訓練については大きく分けて、
①セミナーや研修などの座学
②個人やグループでのスーパービジョン、ケース検討会
③臨床心理士自身が自ら心理療法を受ける体験
の3種類があります。

 臨床心理士の場合はいろいろなセミナー、研修に参加して、ポイントを集めて5年ごとに資格更新をする必要があります。こうした座学もとても大切ですが、それ以上に臨床家としての訓練において重要になるのは②、③のほうだと私は感じています。今回はその中でも②について書いてみたいと思います。


 「スーパービジョン」について精神分析辞典には、
 『精神療法の臨床教育の基本となっている教育方法で、スーパーバイザーとスーパーバイジーが、一対一で毎週規則的に、面接の設定を定めて継続的に訓練を受けていくやり方』と記載されています。
 より具体的には、
『スーパービジョンは、バイジーがセミナーやテキストで学んだことと、実際の経験とを結びつけるものであり、精神療法の研修に必須のものである』と記載されています。
※バイザー:スーパービジョンを提供する側
 バイジー:スーパービジョンを受ける側

 さらに実際的な部分についてです。
 スーパービジョンではバイジーが自らの実施したセッションの記録を持参し、その内容についてバイザー(バイジーよりも経験豊富な臨床家)から指導を受けます。一人のクライアントについて継続的に指導を受ける場合もあれば、毎回別のケースを提示する場合もあるでしょう。そのあたりはバイザーとの相談によって変わります。また、どのような記録を持参するかもバイザーによって異なります。記録をあえて使わない場合、逐語のような記録を使用する場合、治療者の面接中の考えや思いを重視して記載する場合などいろいろあるようです。

 また、「指導」と書きましたが、バイザーからバイジーへの一方向的なものではなく、そのセッションについてバイザーとバイジーで話し合う、議論する、対話するという形をとることが多いと思います。私自身のスーパービジョン体験もそのような雰囲気の強いものでした。私自身が当オフィスでスーパービジョンを提供する場合もこうした雰囲気が提供できるように意識しています。

 しかし、このスーパービジョン体験がどのようなものになるかは、バイザーによって大きく異なるでしょうし、またバイジーがどのように受け取るかによっても異なります。ある程度相性が影響することは否めません。

 そのため、どの臨床家にバイザーを依頼するかが必然的に重要になってきます。

 基本的には自分が受けたいと思うバイザーを書籍、学会の発表などから探しだし、直接依頼します。メールや電話(ときには手紙)などで連絡を取ることが一般的でしょう。もちろん誰かに紹介してもらうことも可能です。私自身も1人目のバイザーは当時働いていた職場の先輩心理士から紹介していただきました。
 
 最近話題の「精神分析の歩き方」という本でも書かれていますが、ベテラン・中堅の心理士に直接バイザーを依頼をして、酷い扱いを受けるということはほぼないのではないかと思います(もちろん様々な理由から断られるということは十分あり得ます)。

 連絡がつけば、あとは心理カウンセリング・心理療法の流れと同じになります。日程調整をし、初回面接でお会いします。初回面接はスーパービジョンの予備面接のようなものです。
 
 私の経験では予備面接で、①私自身の自己紹介や臨床歴、②どうしてその方に受けようと思ったのか、③どういった臨床現場でこれまで仕事をしてきたか、④これまでどのような訓練・研修の経験があるか、⑤このスーパービジョンでどのような事を求めているか(学びたいか)などを聞かれたように思います。

 予備面接を経て、特に問題がなければ契約をすることになります。

 問題が生じることはあまりないとは思いますが、バイジーが求めているものとバイザーが提供出来るものとの間にギャップが大きければ契約には至らないでしょう。例えばスクールカウンセリングに特化した指導を受けたいが、バイザーはスクールカウンセラーの経験に乏しく、引き受けるのが難しいと判断されるなどです。

 スーパービジョンの契約では、曜日、時間、料金、頻度などを決定します。隔週に1回や週に1回で行うことが多いのではないでしょうか。期間については、1年ごとの更新制や、最大2年間までなど、そのバイザーによっていろいろと特徴があるようです。期限がくれば自動的に終了になる場合や、更新が出来る場合など様々です。期限がない場合には、終わりにしたいとバイジーが考え始めたときにバイザーに率直にそのことを伝えるのが通常の流れでしょう。終結について話し合い、終結が確定すれば少し期間を開けて終結日を決めることになると思います。

 私自身は2人のバイザーを経験しており、現在まで合計で約8年間スーパービジョンを受けています。2週間に1回、1週間に1回、それぞれの頻度で経験があります。1回の料金は心理療法・カウンセリングと同様で50~60分で8000~12000円くらいです。

 1人目のスーパーバイザーは大学院を卒業して働き始めた初年度に受け始めました。先輩心理士に相談し、紹介して頂いた方です。個人開業をされている臨床心理士の方で精神分析的アプローチを専門にされている方でした。
 2人目のスーパーバイザーは、学会やセミナーに参加する中でこの方にスーパービジョンを受けたいと思い、自ら申し込んだ方になります。日本精神分析協会の精神分析家の方でした。開業オフィスで働かれていたので、そちらにスーパービジョン依頼の申し込みをしています。

 個人スーパービジョンは心理療法やカウンセリングを生業にしていく臨床家の方にとって非常に重要なものです。何はともあれまずは受けることが大切ではないかと思います。




 個人スーパービジョンのほかに、複数人での「ケース検討会グループ」に参加することもトレーニングになります。

 ケース検討会グループは講師が1名ないし2名おり、バイジーが4~5名から10名ほどで行うことが多いと思います。月に1回開催されるものが多く、大体1年間に1回自分の発表があるという感じです。こうしたケース検討会では複数人の参加者がおりますので、様々な臨床現場や臨床領域で行われている面接に触れることが出来ます。

 個人スーパービジョンと異なり、目の前で報告される他者のケースについてその場で考え、理解や意見を自ら生成し、それを自分の言葉にしてグループの場で発言する、という一連の体験プロセスが大きな学びになると私は考えています。私たちは心理療法の中でも同じようにクライアントの話を聞きながら、理解や介入を生成し、言語化して伝え、その反応をまた吟味し、という同じような体験プロセスの中にいるからです。

 そのためケース検討会は自由に意見が発信できる雰囲気であることが求められます。講師の意見をありがたく受け取る場ではもちろんないですし、ただ単になぐさめ励まし合う場や他者の意見を排除したり、批判したりし合うような場にならないことが大切です。
※当オフィスでも近々初心の臨床家向けのケース検討会グループを立ち上げる予定です。


 さらに、グループに継続参加することで横のつながりが出来ていき、共に学ぶ仲間や同志が生まれることも大きな財産になります。
 
 私自身はあるケース検討会に現在まで10年以上在籍しています。そこのメンバーは、お互いの臨床を支え合い、トレーニングしていく仲間としてとても大切な存在です。その他にも数年間継続参加したグループはいくつかあります。子ども・思春期のケース限定のグループ、初心者のアセスメントを中心に扱うグループ、構造化された精神分析的心理療法を扱うグループなどです。

 また、講師がいないグループもあります。同世代の臨床家で集まって行う研究会、勉強会などです。私自身はこのようなグループを臨床に従事し始めてからいくつか企画して継続して行ってきました。ケース検討会グループともまた異なり、よりざっくばらんに様々な悩みや苦しみを共有できる場として機能しているように思います。




 最後に、なぜそこまでスーパービジョンやケース検討会などのトレーニングが必要なのかについてですが、心理療法は「密室」でかつ「ふたりきり」という面接構造で行う営みです。こうした面接構造は、「搾取」「支配」「依存」「妄信」「性愛」といったある種病的な関係性を引き起こす可能性を“常に”孕んでいます。心理療法自体は、関係性を病んだり回復したり、巻き込まれ振り回されながら進んでいくものですが、ときに道に迷ったり病み過ぎてしまう危険がつきまといます。そして、治療者一人では気づけない状態になることもしばしばあります。
 こうした状態に気づいたり、そこから脱したりするためにスーパービジョンやケース検討会は役立ちます。
 



 臨床心理士の訓練について自分の体験も踏まえつつ書いてみました。

 SNSを見ていると、トレーニングの過程でハラスメントを受けた経験がある方が一定数いるようです。確かにスーパーバイザーやケース検討会グループと良い出会いに恵まれるかは本当に難しい問題です。
 こればかりはやはり自分の直観や感覚を大切にするしかないかなと思います。クライアントが心理士を選ぶ場合と同じですね。

 そのうち訓練・治療として心理士が個人セラピー(個人分析)を受けることについても書いてみたいと思います。

 
 



参考
精神分析の歩き方 (2021) 山崎孝明 金剛出版.
精神分析辞典 (2002) 小此木圭吾(編) 岩崎学術出版.

2022年08月24日