個人で開業すること―空間―
池袋心理オフィスを開業して約5か月がたちました。
昨年から続くコロナ禍…その影響を受け、私が当時臨床心理士として登録していた池袋カウンセリングセンターは閉室、移転(市ヶ谷カウンセリングセンターへ)という事態になりました。
コロナの影響もあり致し方ないと感じる部分もありましたが、それでもかなり衝撃的な体験でした。カウンセリングや心理療法においては、「場」「空間」「時間」が守られていることは非常に重要なことです。それが一気に崩壊してしまう出来事でした。
池袋カウンセリングセンターは市ヶ谷に移転したので、そこで勤務することは可能でした。しかし、私はいずれ池袋で個人開業をしようと考えていたこともあり、かなり悩みましたが、今回のタイミングでの開業を決断しました。
個人で開業することの良さはもちろん、部屋の設え、立地、サービス内容、料金などを自分自身で自由に設定できるということです。なんでも自由になるわけではないですが、そこには私個人の経験や考えが反映されることになります。ソファを選び、棚を選び、カーテンを選び、トイレの備品を選び…こうした手作りの作業は大変さと共に充実感のあるものでした。
一方で、個人的な趣味・嗜好をどの程度オフィス作りに反映させるか、ということは非常に難しい問題です。精神分析の創始者であるフロイトの時代から、このことは議論されてきました。そうした議論の中の一つの考えには、治療者はクライアントを映し出す鏡のようであるべきで、あまり個人的な部分を出すべきではないという考えがあります。こうした考えに基づくならば、オフィスは出来るだけ無味乾燥としていて、特定の趣向を感じさせない方がよいかもしれません。
逆に栗原(2011)はカウンセラー自身の居心地の良さや部屋が「生きている」という感覚を重視し、「相談室に置く備品も、私の趣向に導かれたものを選んでいる」と書いています。こうした考えも非常に重要だと思われます。
私自身は比較的栗原の考えに近い感覚を持っています。あまりにも個人的な主張が強い部屋はどうかとは思いますが、「私のオフィスにクライアントさんを迎える」という感覚を大切にしたいと考えているからです。
私のオフィスに対する印象はクライアントさんごとにもちろんかなり異なるでしょう。部屋の印象など全く頓着しないクライアントさんもいらっしゃいますし、部屋のインテリアや細部にある備品から私に対する印象を構成される方もいます。こういったこともカウンセリングを継続していく中では大きな意味を持つことがあります。
以前の職場では、カウンセリングに通い始めて2年ほど経って、初めて目の前のテーブルに花が活けてあることに気づいたクライアントさんもいらっしゃいました。
些細なことのようですが、通い始めの頃は全く意識にものぼらなかった“モノ”が、全く別の印象をもって視界に入ってくるということが私たちの生活の中ではあると思います。
こうした空間を作っていくことも含めて、個人開業とはとてもやりがいのあるものだなと感じています。
空間つくりに加えて、ブログにどんなことを書くのか、ということもカウンセラーの趣味や趣向が現れます。これもなかなか難しいものです。このことについてはまたいずれ書いてみたいと思います。
栗原和彦(2011) 心理臨床家の個人開業 遠見書房